「本当に健診は百害あって一利なし」なのか?

これからしばらく健診の必要性について御説明申し上げようと思う。これからお話する内容は決して、体の免疫の第一話の内容と矛盾するものではない。
第一話で御説明申し上げたことは、養生(病気を発生させない為に行う日々の習慣と努力)をせず、健診(病気を早期に発見するチャンス)を頻回に受けることは次元が違うということである。
現代生活の中で免疫力を低下させる要因は想像以上に多いものである。病気を出さない努力、養生を行っていてもその隙間を抜けて病気が出てくることは十分考えておかなければならないことである。その意味で健診は、的を得た健診が必要なのである。

慶応病院の放射線の近藤誠先生は、私より4年先輩にあたる。
彼が最近又本を出版し、その題目が「医者に殺されない47の心得」である。私は少なくとも「健診」に関しては、彼とまったく意見が違う。彼は自らの著者の中で「健診は百害であって一利なし」と断言している。科学者たる者が、自らの意見を不特定多数に発信する場合、一定のルールというものがある。(これは何も科学者に限ったことではないが)ものには必ず「光と影」があり、これは私が徹頭徹尾申し上げている信理である。意見を発信する場合は、自らの意見に関しての「光と影」、他者の意見を評論する場合には必ず他者の意見に関する「光と影」を全て列挙し、その上で自らの意見の正統性を主張すべきなのである。彼の主張には自らの意見の「光」の部分と他者の意見の「影」の部分が大きく取り上げられ、公平性に欠けると私はみなしている。

その実例を「CTによる健診」で申し上げよう。
彼は健診にCTを用いることに反対している。2010年11月号の「文芸春秋」にCT健診を受けることによる被爆で下記の如く書かれている。
「推定では、45才の10,000人が全身CTを1度受けると8人が発癌する。又同じ人が75才まで毎年全身の健診を受けると(合計30回となる)190人が被爆により発癌し死亡する。」
確かにCT健診では被爆は確実に起きうるリスクである。しかし2010年の頃の癌による死亡率は30%で、そうなると10,000人のうち3,000人は癌でなくなることになる。今後は「2人に1人が発癌する時代」と言われているが、2010年の頃は確実に「3人に1人が癌が原因で死亡する」時代なのである。元々3,000人発癌する中でどうして8人であり、190人なのかの根拠は全く示していない。

同じ文芸春秋の中で、癌研有明病院の平井康夫先生は肺癌のCT健診について「低線量ヘリカルCTでは2〜3mmの癌を見つけることができる。」と反論している。そうなのである。近藤誠先生がルールを守っていないと申し上げたのは、CT健診を受ける際の「影」の部分を主張し、CT健診を受けると少なくとも2〜3mmはともかく、5mmの癌は見つけることが出来るという「光」の部分を言っていないことと、更にCT健診を受けなかったことによる「光」の部分、即ち被爆しないですむという事に加えて、CT健診を受けなかったことによる「影」の部分、即ち5mmの癌を発見できるというチャンスを失うことを言っていないからである。このような主張は「我田引水」もいいところである。

私自身は、毎月血液検査を行っている。45項目の一般検査に加え、癌マーカー(腫瘍マーカー)を含む特殊項目、数項目を加えている。
更に年に2回、胃と大腸の内視鏡、そして年に2回、低線量ヘリカルCTによる全身(頭部〜骨盤腔)チェック。これが私の健診内容である。

この健診は確かに少々ヘビーである。これは私が被爆2世で発癌し易い条件(家族歴等)ということもあってのことである。
もちろん健診はあくまでも病気の芽を早く見つけようとする手段であって発癌を阻止するものではない。私は徹頭徹尾、発癌をさせない生き方を実行してきている。それでも、その隙間を抜って病気は出てくるものなのである。病気を出さない生き方をすれば大丈夫という訳にはいかないし、発癌させない生き方と早く見つけることは別次元のことなのである。

もう一つ、近藤誠先生の意見に私が反論する理由は、あえてストレートに言わせてもらえれば、彼が患者なり、健診者を丸ごと人間としてとらえていないからである。

人間は心の生きものである。
人間は恨み深き生きものである。
人間はその心にムラのある生きものである。
人間は評価を欲しがる生きものである。
そして人間は必ず後悔する生きものである。

私も医者になって36年。何故もう少し早く病気が分からなかったのか、あと半年早ければ、こんな文明、科学診断技術の進歩している時代において、本人だけではない。家族も又同じである。悔やんでも悔やみきれない思いをどれだけたくさんの人がして来たのか。私はこうゆう人達をたくさん知っている。

早期に見つけて経過が思わしくなくても、その時はその時で、落としどころというか、それなりに納得もできるものである。
症状がないから健康とい訳ではないのである。症状があれば誰だって自ら医療機関を受診するのである。問題は症状のないうちから、病気というものは進むものなのである。



症例紹介

これから何例か、症例をご紹介し、定期的に検診を受けることの重要性をご理解いただきたいと思います。

継続して定期検診を受けることが重要

【 症例1 】

昭和16年生まれの男性です。

平成15年から毎年、大腸内視鏡の検査を受けていらっしゃいました。しかし何故か平成20年だけは受けませんでした。翌年平成21年、大腸癌が発見されました。

ポリープ状の癌でしたが、内視鏡で切除するには、大きさ・形状とも難しく、結局、開腹手術となり、大腸の一部を切除となりました。

もちろん、命に関わる程の進行ではありませんでしたが、平成20年に定期検診をお受けになっておられたら、99%開腹せずに、内視鏡で切除できたと思われる症例です。

初期の癌を早期発見できたことで開胸手術を回避

【 症例2 】

65歳男性(年齢は平成22年の時点)

会社役員の方で毎日が接待・会食でアルコールも多飲されます。 私も一度、この方から接待を受けました。そして驚きました。 アルコールの量も多いのですが、後半は、ウイスキーを薄めず、ストレートでお飲みになりました。それがいつものペースだそうです。

私は元来、年に二回、胃と大腸の内視鏡検査を受けておりますが、この方にも、「アルコールが食道と大腸にはリスクであり、多飲する方は食道癌、大腸癌を発症し易い」と説明し、その年から年2回の胃と大腸の内視鏡を受けていただくことにしました。それは、平成20年のことです。

生活指導については、この方は全く改善してくれませんでしたが、内視鏡検査については、驚くほど素直に応じてくれました。平成21年7月の胃カメラでは全く食道に所見はありませんでした。 平成22年2月の胃カメラで食道に異常所見があり、病理検査で食道癌と診断、但し、それは粘膜下層を超えていない初期の癌でした。幸いにも、この方は開胸手術をすることもなく、内視鏡で切除ができました。

大体、大酒飲みの方は、あまり医者の指導を守ろうとはしません。この方もそうでした。 しかし、この方は年に2回の内視鏡検査に救われました。 仮に平成21年7月から1年後に発見されていたとしても初期だとは思いますが、内視鏡で切除できるほどであったか否かは疑問です。

当クリニックには季節に1回、血液検査を受ける方が約300人いる。その方々は年に1回、低線量ヘリカルCTの全身チェック、そして年に1回は胃、及び大腸の内視鏡検査を受けている。
定期的に健診を受けて救われた人、今年だけ健診をジャンプ(受けなかった)した為に大事に至った例、様々である。