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第37話 いかにして、体温を上昇させるか? (入浴編)

私は、この21年間、徹底して「熱の取り込み」、即ち体温を上昇させることに注意を払って来たし、殆ど完璧にそれを実行してきた。 何故、私が熱の取り込みに注意を払ってきたかという理由には、大きく分けて3つの理由がある。

  1. 私が原爆被爆2世(両親は共に原爆ドームから1キロメートル以内の被爆で共に発癌、妹も43歳で発癌した)であり、家族、親類が原爆の影響か否かはわからないが、ことごとく癌家系であること。
  2. 私は、先天的に、右股関節の骨頭形成不全があり、今は人工関節を入れている。先天的に関節変形があった為に子供の頃から、一切運動することは禁止であった。それ故、運動をすることで熱を作り出すことが難しい体であるということ。
  3. たまたま、私は、医学、特に免疫学を学ぶ機会を得て体温低下がいかに免疫力低下につながるかを正確に知る立場にあったということ。

それ故、この21年、数々の試行錯誤を経て、いろいろと自分なりに工夫をして現在に至っており、現在の熱の取り込み方は、ここ数年変わっていない。ということは、現在の熱の取り込み方が最も効率的で、効果があると考えているからである。私は、よく体温を上昇させる方法、熱の取り込み方について質問される。 それを答えるのは結構大変で、一言で答えられるものではない。そこで、一度、その全てを文章化し、それを読んでいただこうと考えた次第である。今回はその「入浴編」である。

覚悟

30歳を超えている方に申し上げておきたい。「自分の体がほっておいても熱を作り出す体と思ってはならない。」 我々が、その辺でころがっていると冷たいものである。 その辺にころがしておいて暖かいのは赤ん坊からせいぜい10代までである。30歳を超えると基礎代謝,新陳代謝は極めて低下し、熱量産生は低下。それ故、積極的に熱を作り出すか、取り込むことが必要になる。

御質問について

体温を上昇させる方法は、幾つかあるが、その質問に関して、一番多いのは「お風呂の入り方」である。それ故まずお風呂の入り方について、私の出した結論と、実行している方法について書かせていただこうと思う。 目ざすは、深部体温(ここでは、この深部体温についての説明は省略させていただく)の上昇である。

1   入浴時間

これについては、出来るだけ長く、お湯につかっている方が良い。私は必ず1時間はお湯につかりっぱなしである。ここで、ちょっと考えてみていただきたい。
お肉でもお魚でもよい。少しぶ厚いものに火を通す時、どう調理するであろう。これはもう「弱火で長時間」である。強火で調理すれば表面だけ焦げて、中まで熱は通らない。これ以外の方法はないのである。それ故、体の深部に熱を送り込む、すなわち、深部体温を上げる方法の第一は、「少しでも長くお湯につかる」ことなのである。

2   お湯の温度

先に「弱火で長時間」と申し上げた訳であるから、当然熱いお湯である必要はなく、私は、39〜40度のお湯にしている。
私がこの温度を申し上げるといつも幾つかの反論を受ける。
その1つは、そんな温度で寒くはないのか? それで本当に深部体温が上がるのかという質問である。その答えは「お湯のつかり方によっては、寒くはないし、また深部体温は確実に上昇する」である。
だから「長時間」なのである。概ね1時間お湯につかると、普段36度ぐらいの体温の方は、深部体温も3度くらい上昇する。
この件は、新潟大学の免疫学者、安保徹先生の著書にも書かれている。但し、安保徹先生の著書には「全身浴の場合」とある。「半身浴」では難しいのである。全身浴と半身浴の違いは何であろう。これは当然のことながら、首及び腋下がお湯につかっているか否かである。首と腋下は、思いの他、熱の出入りが激しい場所なのである。首と腋下は、実に熱が入り易くまた出て行き易い場所である。まず首から熱が入りやすい実例である。
戦争映画を見ると、よく日本の兵隊さんが、首の後ろに布を垂らしておおっているのを思い出される方も多いだろう。またゴルフをしている方が、襟を立てて、首に直射日光が当たらないようにしている姿も、同じ原理に基づくものである。首は、太い血管が比較的、皮膚の表面近くを走行し、その血管内の血液が直射日光に温められ、熱くなった血液が脳に行き易く、それを防ぐために前述の防御をする訳である。
温められた血液が、脳に行くことは、あまり好ましいことではなく、その詳細は省略させていただくが、「頭寒足熱」という諺があるのが、何よりの証拠である。腋下も同じ原理である。
逆に、首や、腋下から熱が逃げやすい証を御説明しておこう。
盛夏、猛暑の時期にも、和服を着こなす御婦人がいらっしゃる。
この御婦人方は、体に熱がこもってしまい、熱中症になるのではないかと心配してしまうが、彼女達は、うまく熱を逃しているのである。その場所は首と腋下である。首は襟を抜くことで、腋下は袖の下で開放されているので、そこからうまく熱を放出しているのである。
首と腋下はこのように熱が入り易く、また熱が逃げ易い箇所なのである。だから、安保先生の本にも「全身浴の場合」と記されているのである。首までお湯につける事で、温められた血液を全身に運ぶのに好都合であり、それ故深部体温も、お湯と同じ39度になり易いというわけである。そうすると、またここですぐに反論の質問が続く。
「先程、温められた血液が脳に行くのは良くないと言ったではないか」と。

工夫その1

その通りである。だから全身浴で長時間入浴している場合、頭や顔を冷やす工夫が必要なのである。私の場合は入浴中、風呂場の戸は常に開きっぱなしの状態にしている。そうすることで廊下の冷気が顔や頭に当たり、あたかも、露天風呂に入っているが如く、のぼせることがないのである。
「頭寒足熱」の原理をそうすることで守っているのである。いくら39〜40度のぬるめのお湯であっても、風呂の戸を閉めて入ると、間違いなくその湯気でのぼせ、湯当たりをしてしまうのである。更に正確に申し上げると、いくら露天風呂と同じような条件で入浴し、「頭寒足熱」を守っても、深部体温の上昇に伴って、湯あたり症状は出てくるのである。それ故、風呂場の戸を開けて入浴する他にもう一工夫必要なのである。そしてその一工夫こそが間違いなく湯当たり症状を回避できる策なのである。確かに安保先生の本には、「全身浴の場合」と書かれてはいるが、1時間近くもの間、全て全身浴というのは不可能なことである。21年間、この入浴をしている私が身をもって不可能なことと確信をしている。あくまでも、基本は「全身浴」なのであるが、時には半身浴に近い状態もあって良いというのが私の考えである。(但し、私の場合、もう21年もやっているので、腋下より下にお湯の高さがくることはない。首は時折、お湯の高さより上に出し、しょっちゅう手首と足指から足首にかけてはお湯の外に出している。

工夫その2

目的はもちろん、深部体温の上昇スピードを調節し、湯あたりの症状を回避するためである。湯あたり症状は、身体にとって不快であり、何よりも、交感神経を過度に緊張させるものであり、その結果、脈は速くなり、発汗は進み、免疫学的にも好ましい状況ではない。その調節に、私は、手首と特に足指から足首にかけてをお湯の外に出すことにしている。

以下の件についても紙面の都合上、その詳細な作用機序は省略するが、我々の体(脳)は、最も血流の悪い場所を基準に体内(躯幹)の血管の収縮と拡張を行っているのである。最も血流の乏しい場所は足の指である。足の指から足首を湯の外に出すことによって、躯幹の血管の収縮と拡張を湯につかりながらにして調節する訳である。
熱くなってきたな〜と思えば、足指から足首、手首までを湯の外に出し、躯幹の血管を収縮させ、少し血流を少なめにして、深部体温の上昇スピード調節するのである。これはまさに「足湯の原理」の逆である。
足首から先だけでもお湯につけていると体は暖かくなる。
これは足先が温まれば躯幹及び体内の血管が拡張し、血流が増えるからである。要するに、全身浴におけるアクセルと足指から足首を出すことによるブレーキの使い分けと解釈していただければよいと思う。

1時間近くはずっとお湯に入っていられないので、熱くなったら、一度出て、また入る。10分入ったら5分ぐらい出て、を繰り返せばと言うが、湯舟から出るのは、浮力がなくなった重い体を動かす訳で、しかもそれを10分毎に繰り返すとなれば、それだけでもう疲労の原因である。

湯につかりながら湯当たりを回避、深部体温の上昇スピードの調節は横着な発想である。しかし横着な発想かもしれないが、その調節行為は確実に生理学に基づくものなのである。
かくして、私は、1時間、ずっとお湯に入りっぱなしで「仕事」が出来るという訳である。私の場合「仕事」と書いたが後は1時間お湯につかりっぱなしで何をするかである。

工夫その3

抗癌剤を使わず、かなり進行した癌を克服した方の例であるが、ある人は相撲が好きで、その放送中、湯につかってテレビを見ていた人がいる。またある人は、サスペンスが好きで、それを見ながら湯につかっていた人もいる。
私はもっぱら「原稿書きや講演の準備」に入浴時間をあてている。1時間は、実にあっという間である。本を読むのも良かろう。何をするかは、その人の工夫次第である。

癌細胞は、39.3度ぐらいで、その分裂を停止する。(死滅はしない。しかし、分裂が止まるということは、癌は殆ど大きくならないということである。)癌細胞が熱に弱いと言われる由縁である。
これも詳細は省略させていただくが、我々の体には、確実に毎日、約3,000〜5,000個の異型細胞(癌細胞の前段の細胞)がつくられている。
しかし、毎日毎日、それらが確実に除却されるから、通常我々は発癌せずに生きていけるのである。この異型細胞を毎日、除去してくれるのが我々の血液の中を流れているリンパ球で、そのリンパ球の能力が実に体温によって影響されるのである。低体温が「発癌体質」と呼ばれる理屈である。
私が、「深部体温を1日1回、39度近くに毎日上げておきなさい」と申し上げると、「私に毎日、インフルエンザにかかっていろと言うのですか?」と言った人がいた。インフルエンザとまでは言わなくとも、「そんな高熱には耐えられない」という趣旨のことを言った人は多い。それは、病気で39度の熱は確かに辛いであろう。しかし私の言っている39度はまずはお湯の温度であり、そのお湯につかってゆっくり深部体温を上げようと申し上げている訳で、病気による発熱と一緒にされては困るのである。

法句経と言うお経がある。このお経の最初に、「人間は、心の生き物である」と書かれている。続いて「人間は評価を欲しがる生き物である」と書かれている。実に真理をついた一言である。評価を早く欲しがって42度のお湯に入る人もいるが、それは湯当たりを起こし、決して深部体温を上げることにはつながらない。反対に交感神経を過度に緊張させかえって逆効果なのである。「とろ火で長時間」そして正に「継続が力」なのである。いくら早起きが良いからといって早く起きても、することがなければこんな辛どいことはない。とにかく風呂場での時間をいかに楽しむかである。それを見出せたらもうしめたものである。

とりあえず、私はこの入浴を毎朝行っている。夜ではなく朝である。私は、午前4時が起床なので、概ね4時30分から5時30分ぐらいが入浴の時間帯である。ちなみに就寝は午後9時である。
1時間の入浴をしても午前4時起床なので、かなり時間的余裕はある。私は、朝、ドタバタ、追われる生活をしたくないと考えている。ギリギリまで寝て、トーストをコーヒーで流し込み、忙しく出勤したくないのである。それもまた交感神経を介して決して免疫学的に良い生活習慣と言えないからである。
車もエンジンを温め、機関の隅々までオイル・潤滑油を廻して走らせる方がメンテナンス上、良いことに反論はないと思う。人間も全く同じである。私は「朝」が肝心要と考えている。

私は、今年3月4日、信号待ちをしていたら、脇見運転の車にノーブレーキで思いっきり追突され、頸椎捻挫で救急車で運ばれた。当然と言えば当然であるが救急車の中で体温を計られ、到着した救急病院でも体温を計られた。救急車の中では37度、到着した救急病院では看護師さんが37.2度と報告していた。はからずも、こんな事態で自らの体温を知ることになったが、私の体温維持の方法は間違っていなかったと確信した次第である。

昔から、湯治は、病気平癒のために一番効果的な治療法とされて来た。
当時は病気になってからかもしれないが、毎日の入浴が、発病を未然に防ぐものとしたら、こんなにありがたいものはない。
今回は、熱の取り込み「入浴編」をご紹介申し上げたが、少しでも参考となれば幸いである。